上京したての新卒サラリーマンが「ナンパ」をはじめてから、やらなくなるまで(前編)

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これは僕がナンパについて関わった、2012年から1年間くらいの記録だ。

最初に自分のことを少し。生まれてから大学まで電車が1時間に1本しか走らないような田舎で過ごして、就職のタイミングで東京に出てきた。今もそのメーカー系の会社で営業職として働いている。

外見は痩せ形、メガネ、服装はシャツが好きで清潔感を重視。バンドサウンド系の音楽を聞くことが好きで、特にHI-STANDARD最盛期周辺のパンクロックをよく聞く。恋愛遍歴は恋人は片手の指で足りる。セックスした人数は両手の指で足りない。そんな男子が東京に上京してナンパに関わることなる。 

■ナンパというものを知る

「街にたくさんの人がいる」

田舎にずっといた僕が東京に抱いた最初の印象だ。渋谷や新宿に行くと、綺麗で肌を露出した女性達が目についた。特に電車では、そんな女性達と近づいくことになる。田舎ではあそこまで不特定多数の人と近くの距離になることはなかったから驚いた。そしてひどく疲れた。僕は彼女達をじっと見ていた。そして「こんな綺麗な女性とこの先一生知り合いになったり、セックスしたりすることなどないのだろうな」と思い、勝手に悲しい気持ちになっていた。この時、僕には遠距離恋愛中の彼女がいたのだが、そんなことを思っていた。

そんな時、たまたまネットで”ナンパ”について書かれたブログを見つけた。そこには日々’ナンパ師’と名乗っている人がナンパをしている記録が書いてあった。どんな女性に声をかけたか、どんな会話をしたか、どのようなセックスだったか、女性の年齢、職業、カップ数、そしてハメ撮りした画像。それを見て興奮する気持ちを抑えられなかった。”ナンパブログ”と言われるものを貪るように見た。そして知った。彼らは路上やクラブで女性に声をかける事、声をかけてその日のうちにセックスをしていること。そのときの僕にとって「女性と出会って数時間でセックスする」ということがあるのだと衝撃を受けた。「本当かよ」と思いつつも、投稿されている行為中の画像たちに性欲を刺激されていた。まるでアダルトビデオのようにその画像を見ては、自慰をしていた。

 

■自己流でナンパをやってみる

それから街に出る度に”ナンパ”という単語が頭をちらつくようになった。あの道行く綺麗な女性に声をかけることができたら、そしてもし仮にセックスをすることができたら、、、どんなに幸せだろうか。そう思ってナンパをやるために近所の大きい駅の周辺に出てみることにした。最初は女性を見つけてはその後をついていくだけだった。それを何度も繰り返す。声をかけたいのだけれど、怖くて声をかける事ができない。僕の見ていたブログではあんなに楽しそうに声をかけていたのに、だ。そして数時間、駅の周辺をうろうろした。これはヤバいと思い、仕切り直すために飯を食った。ひとまず声をかけなければと思った。だから声をかけやすい、そんなにタイプでない女性に声をかけた。彼女がエスカレーターをを降りる時に後ろから声をかけた。

「あのーすいません。。。。。これから呑みにいきませんか?」

「。。。いや、大丈夫です」

こんな感じだった。僕は目も会わせずに退散した。それで少し勢いがついて近くにギャルに声掛けするも、全く相手にされず。ナンパブログのように声をかける事ができなくて、悔しくて、帰り道は2時間ほど歩いて家まで帰った。

それから、ナンパといえば湘南の海だろうと思って、友人と一緒にナンパをしに行ったこともあった。でもそれは僕を落ち込ませるだけだった。アルコール飲んだ水着の男女が入り乱れて踊るパーティー。スピーカーからはクラブミュージックが大音量で鳴り響く。可愛いギャルの手を引っ張って、どこかに消えていくギャル男。その光景を前にして僕は何もできなかった。ずっと立ち尽くしていた。表情は嘲笑しているふりを装った。でも彼らと同じように楽しそうに騒げない自分が恥ずかしくて、情けなくて、悔しくて、地面にうずくまったまま動けなくなってしまった。そして結局、踊るギャル達を前にしてすぐ近くのジョナサンでチーズハンバーグ定食を食べて帰った。

それから数日経ったある日、著名な社会学者の宮台真司さんのTwitterを通じて、とあるブログを見つけた。

 

■高石宏輔さんにナンパを教わる

ナンパ、催眠を通して見出した他者と話すということ |というブログ。これは高石宏輔さんという人によって書かれているらしい。彼のブログは、他のナンパ師のものとは雰囲気が違っていた。今まで見ていたナンパブログのような「女性とどんな会話をしたか」や「カップ数、ハメ撮りした画像」などは掲載されていなかった。

特に衝撃を受けたのは、彼が元々引きこもりで鬱病だったこと。僕は学生時代に2度ほど鬱症状に悩まされて、半年ほどベッドの上で過ごした事がある。今は内観療法のお陰で社会人になる事ができたのだが、彼も同じように自分の精神的な不調に悩んでそれを克服し、今はナンパを教えたりカウンセリングをすることを仕事にしているという。それから彼のブログを熱中して読んだ。すぐに文章に引き込まれた。こんな繊細な文章を書く人がナンパをして渋谷の街にいる女性とその日にセックスをしているのか。僕はこの人しかいないと思った。この人にナンパを教わりたいと思って覚悟を決めてナンパ講習に申し込んだ。彼に会う日は10月1日に決まった。待ち合わせ場所は渋谷のハチ公前。その日は僕にとって一生忘れられない日になる気がしていた。

仕事を早く終えて渋谷のハチ公前に着いた。

「一体どんな人がくるのだろう」

僕はかつてないくらいドキドキしていた。電話がかかってきた。

「今、目の前にいます。」

その時に目に飛び込んできた人を見て、僕は驚きを隠せなかった。

僕の「ナンパしている人」のイメージは、軽薄で、ノリがよくて、外見はEXILEのような人だった。もちろん、そんな人がくると思っていた。だけどそこには、お世辞にもナンパしそうにない兄ちゃんが立っていた。文化的で知的な雰囲気を携えてふわっと目の前に現れた、高石宏輔という人。

僕はあまりに驚いて、混乱して、開口一番に「ご飯食べましたか?」なんてよく分からない事を聞いた。それを聞いた高石宏輔さんは「そんなこと初めて言われましたよ」そう笑って、僕の渋谷での路上ナンパ講習が始まった。

高石宏輔さんはまず僕に聞いた。「なんでナンパを教わりにきたんですか?」

「街の女性を見ていたら性欲が溢れるんです。見ているだけで苦しいんです。」

「そうですか。今の胸の苦しい感じをしっかり味わってください。それから声をかけてみましょう」

すぐにナンパすることになった。意外とすんなり声をかけることができて、ブログで見た「渋谷で一番可愛いと思って声を掛けました」みたいなことを言った。でもこちらを見ようともしてくれなかった。いわゆるガンシカだった。

声をかけ終わった後、「今はその性欲が溢れる感覚、胸のもやっとした感覚はどうですか?」そういわれて胸の感覚を感じると、声をかける前よりすっきりしていた。「すっきりしています」僕がそういうと、彼は笑った。

僕は遠距離恋愛中の彼女がいて、それでもナンパをしたいということを話した。

「彼女が好きじゃないんじゃないですか?」

「それはないです。僕は彼女に感謝していますし、別れる気はありません。」

「そうですか」高石宏輔さんはそれ以上聞かなかった。

声を掛けながら、その時の自分が女性からどう見えているかを教えてもらう。「街の中で浮いた存在にならないように」と街をぼーーっと見た方がいいことも教わった。ぼーーっと見ていると、高石宏輔さんが横から「今反応しましたね?」と聞いてくる。そして声を掛けることをやった。僕はずっと「渋谷で一番綺麗だと思って声をかけました。どこに行くんですか?」という言葉を繰り返した。それに対して「質問せずに自分の事を話してください。ナンパでいきなりする質問は自信のなさの現れです」と言われた。それから自分のことを話すよう心掛けた。その日は台風が去った後だったので「ネクタイが台風に吹き飛ばされそうで大変だったんですよ!ぶわぁっ!って!」と大きなジェスチャーを交えて笑いながら声を掛けた。それしか話せなくなっていた。僕は緊張している場面ではつい笑いを誘う行動をしてしまう。それも自信のなさから来ているのだろう。

「意外とガンガンいきますね。でもそればっかりなのでネクタイネタ禁止です」

「えっ、ナンパってどう声をかければいいんですか?」

「ぴろしきさんは親とか友達と話すときって、何話せばいいか考えてますか?」

「いえ、何も考えてないです」

「そんな感じですよ」

わかったような、わからないような感じだったが声をかけ続けた。無我夢中だった。

それからも色々なことを教えてもらった。最初の一言目でその後の関係性がほぼ決まること。声をかける位置や声量が大事なこと。大げさなジェスチャーはやる過ぎると相手をびっくりさせること。呼吸で緊張をとることができること。ナンパだからこそ失礼のないように女性を気遣うこと。しっかりした女性は意外と話を聞いてくれること。”即系”という誰とでもセックスする女性がいること。街に出て一声掛け目が一番緊張すること。ナンパに慣れる為に毎日声掛けするほうがいいこと。そして”今まで指摘したことはすべて忘れて、何も考えずにとにかく声掛けをすること”。 

講習の終わりの時間が迫っていた。僕は講習の最後に「ナンパを見せてもらえませんか?」とお願いをした。彼は少し悩んで「わかりました」というと目の前のカラコンをしている綺麗なギャルに声をかけた。最初はガンシカしていたギャルが、彼の発する言葉と身振り手振りによって少しずる開いていくのがわかった。

彼の動作は美しかった。僕の脳内にある’ナンパ’というものとは似ても似つかないものだった。渋谷の街で女性の前に立って進路を塞ぐことでもなくて、湘南の海でギャル男が無理矢理腕を引っ張るのでもなくて。ふわっと女性の横に立ってゆっくりとした言葉を投げていく彼。ふわふわと揺れるように女性との距離感が目まぐるしく変わっていく。最初は女性の反応がなかったけれど、彼が発する魔法のような’何か’に次第に反応していく女性。女性と一緒にゆっくりと歩きながら談笑しているその姿は、街に溶け込んでいて自然な関係性に見えた。

「番号聞けませんでしたよ」

彼はそう言いながら戻ってきた。僕は感動していた。そして思わずこう言った。

「ナンパって、かっこいい人がするものだと思ってましたっ!!」

僕の頭の中にあった’ナンパ’のイメージが崩れていた。ネット上のナンパブログと、湘南の海にいるギャル男によってつくられたイメージ。

それから数ヶ月、僕は狂ったようにナンパをすることになる。

 

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中編に続きます。